第3章 教員評価システムと自己評価
―海外との比較を中心に―
 
笹島 茂
 
I はじめに
 
 第2章で見た通り,教員評価システムの問題は最近議論され始めたばかりと言える。英語教育に限って考えてみれば,学習指導要領にある理念は学校現場では顧みられない現状が少なからずある。その一因は,英語指導の目的・目標・授業方法(手立て)とそれに対する教員評価が,効果的に実施されていないという点にある。
 本章では,英語現職教員研修の改善を図る意味から,この教員評価のあり方の現状と問題点を考えていくことにする。そのために,まず,教員評価を論ずるにあたり,次の2点を区別しておきたい。
 
 (a) 人事考課としての昇進,昇級などと関連した教員評価システム
 (b) 授業内容,学習指導の改善に対する教員自己評価
 
 (a)に関する教員評価は,福岡,佐賀,宮城,東京などで実施を始めている。また,埼玉,岐阜,広島,高知,大阪などで制度化に向けて検討を進めている。しかし問題も多い。(b)に関する教員評価は,日々の多忙な活動の中で,とかく形式的な目標設定や評価となりがちである。根本的に,双方とも,評価に関する基準や方法があいまいで,よく言われる信頼性・妥当性のある評価ができているかはたいへん疑わしい。
 まず,(a)の教員人事考課の現状を考え,イングランドやアメリカ・マサチューセッツ州等の教員評価と比較しながら問題点を指摘し,次に,(b)の教員評価の必要性,特に,資質向上に向けた教員自己評価の方法を合衆国の現状から考察する。
 
 
�U 教員評価システム
 
1.日本における教員評価
 
 法律的には,校長は勤務評定を行なう(地方公務員法40条,国家公務員法72条)ことになっているが,実際にそれがどの程度の実効性があるのかは定かではない。実際の勤務評定のポイントは,埼玉県の場合次のようになっている。
学級経営,学習指導,生活指導,研究修養,校務の処理,勤務の態度
 上記の学習指導の観察内容の観点は次の通りである。
 
(a) 学校の指導計画が適切に実施されるようにくふうしているか。
(b) 日々の指導に当って教材研究その他の準備をよく行なっているか。
(c) 指導内容は正確,適切であるか。
(d) 児童・生徒全体をよく掌握し,実態に即した指導をしているか。
(e) 教科書その他の教材の活用を効果的に行なっているか。
(f) 適切な評価を行ない,指導の改善に役立てているか。
 
 このような観点から,学習指導をA,B,Cの3段階で評価することになっている。しかし,この評価は公表されることはない。要するに,現状の問題としてこの方式は,教員の資質向上を目的とする評価としては,信頼性,妥当性,実効性に乏しいのではないだろうか。
 東京都の人事考課制度が2000年度より始まった。自己申告と業績評価(教頭・校長による絶対評価と教育長による相対評価)の2本立てで,
能力,情意(意欲,態度),実績
の項目に関して5段階で評価するとなっている。教員からの自己申告は,
学習指導,生徒指導,進路指導,学校運営,
特別活動,その他,研究・研修
の項目において記述で行なわれる。また,教頭,校長による
授業観察
も行なわれることになっている。
 この人事考課制度がどう評価されるかは今後の問題であるが,まだまだ課題が多いことも事実である。その点から,まず,一つの比較の対象としてイングランドの教員評価を考えてみる。
 
2.イングランドの教員評価システム
 
 英国,正確には,イングランド及びウェールズでは,1988年の教育改革法(Education Reform Act)以来徹底した教育改革が続いている。ナショナルカリキュラムの設定や統一テスト(GCSEなど)も定着してきた。特に,まず学校や地方教育委員会(LEA)などの組織を評価することに経済性を導入し,相当の予算を組んで実施している。その評価結果は公表され,生徒のテスト結果も学校ごとにリーグテーブル(league table)として発表される。当然,成果の上がらない学校には予算は行かなくなるという,厳しい学校経営が要求されている。
 イングランドでは,学校の教育や教員研修などを評価する組織として,独立した政府機関であるOFSTED(The Office for Standards in Education)と呼ばれる組織がある。次の4つの調査を主な仕事として,各学校は6年に1回,1週間程度の査察を受け評価されている。
(a) 学校の教育の質 (the quality of education provided by schools in England) 
(b) 生徒が達成する教育水準 (the educational standards achieved by pupils in those schools)
(c) 学校の適正な財政支出 (whether the financial resources made available to those schools are managed efficiently)
(d) 生徒の精神的,社会的,文化的発達 (the spiritual, moral, social and cultural
  development of pupils at those schools)
 
 評価者たちは学校を訪問し,授業を参観したり,校長や教員と面接などをすることにより学校を評価する。報告書が出るまでには20日程度の日数を要するようである。もちろんこのような評価の方式には批判もあるが,現在はかなり定着した感がある。
 このOFSTEDによる学校評価のもとに各学校では教員も評価される。校長の責任のもとに任命された評価者が評価することになっている。もちろん,校長も評価される。2年に1回,次のような教員評価の内容と手順で行なわれる(Circular No: 12/’91)。
 
・内容
授業観察 (classroom observation)
面接 (an appraisal interview, in which targets for action are established)
評価報告書作成の準備 (the preparation of an appraisal statement)
評価者と教員の反省 (follow up, including a review meeting between the appraiser and appraisee)
・手順
初対面 (the initial meeting)
自己評価 (self-appraisal)
授業観察 (classroom observation)
種々の情報の収集 (collection of information from other sources)
評価のための面接 (the appraisal interview)
 この教員評価は,1992年導入当初,給与や昇進などには関係しないということで導入されたが,2000年より給与や資質向上にも実質反映させることとなった。このことに関しては反対もあるが,教員には比較的好意的に受け取られているようである。また,各学校では教員評価が毎年実施されるようになっている。
 2000年からGreen Paper (‘Teachers: meeting the challenge of change')(DfEE December 1998)が提唱する評価システムが推奨されている。教員の実際の教育活動(performance management)を効果的に評価するという方向に向かっている。また,教員養成段階ではQTS (qualified teacher status)技能試験(読み書きと算数と 情報通信技術(ICT)の試験)を教員候補者が受験することになっている。(2001年からはコンピュータオンラインで受験できるように整備される。)
 このような教員評価の徹底とは裏腹に教員不足が深刻化しているが,2001年には教員の給与を3.7%,初任給を6%上げるという政策も打ち出された。このことに関して,教育雇用省のBlunkett 氏は次のように述べている。
 
  This year's pay settlement is designed to help us in three important objectives which are a vital part of our drive to raise standards: to recruit more new teachers, retain good teachers and reward teachers.
 
教員評価の徹底とともに生じている教員雇用の問題,教員養成の問題,現職教員研修と資質向上の問題,さらに,現実的な給与や待遇の問題とさまざまな問題を抱えながらも,政府が教育政策に力を注いでいることが窺われる。
 
3.合衆国マサチューセッツ州の教員評価システムと任用
 
 周知のごとく,合衆国は徹底した教員評価を実施している。州によって教育政策やシステムが異なるので一概には言えないが,教員が資格をとり,継続的に資質を向上することを奨励している。一例としてマサチューセッツ州の教員評価をここでとりあげる。
 マサチューセッツ州では,1993年の教育改革法(the Massachusetts Education Reform Act)と1994年の修正資格法(the Amended Certification Law)に則り,教員の5年の任期制を導入している。そして,資格を次の3段階に分けている。
 
・任期制限資格 (Provisional Certificate) :大学卒で資格試験を通った教員
・水準の高い任期制限資格 (provisional with Advanced Standing
     Certificate):任期制限資格と教育委員会が課した用件とプログラムを受けた教員)
・標準資格 (Standard Certificate) :修士課程などを経て教育委員会の適格用件を満たした教員
 
 5年ごとに資格を更新する。それには資質向上ポイント(Professional Development Point (PDP))を得なければならない。PDPとは,要するに,研修参加時間である。資質向上の研修に1時間参加すると1ポイント(一部1.5ポイント)となり,継続的な研修はまとめて10あるいは15ポイントとなる。標準資格更新規程の要点は概ね次の2点である。
 
(a) PDPポイントを少なくとも150ポイント獲得する。
(b) 資質向上計画(the professional development plans) に同意する。
 
 5年の任期間に以上の点が満たされなければ,教員は標準資格を失うということになる。もちろん復活の道は作られている。資格更新の手続きは概略次のようになっている。
 
(a) 申込書記入 (a completed application)
(b) 必要な費用 (the required fee)
(c) 道徳的な人格の保証 (proof of sound moral character)
(d) 計画のもとに必要なPDPポイントを終了したという声明書(a statement, signed under penalties of perjury, that the candidate has successfully completed the requisite number of PDPs under a professional development plan)
 
 さらに,教員は,個人の資質向上計画やそれを保証する書類,また,終了した研修の記録を5年間ファイルしておかなければいけない。
 イングランドの教員評価とはかなり異なっているが,学校システムの違いなどがあるので,単純に比較することはできない。しかし,このポイント制は,カナダやシンガポールなどでもほぼ同様のシステムを採用している。しかし,教員の資質向上をめざした研修システムを整備し,それを保証している点では評価できる。ただ,合衆国における外国語教育と外国語教員の質が日本とは異なるので,これも単純には比較できないだろう。
 
4.教員評価システムの問題点
 
 イングランドやマサチューセッツ州の教員評価システムが決してうまく機能しているわけではない。たとえば,イングランドの場合,1997年にOFSTEDは,各学校の教員評価システムについて,(a)厳しさに欠ける,(b)指導の質と生徒への影響が低い,(c)非現実的な目標設定,(d)授業観察の不徹底,(e)評価と研修の連携の不備,という5つの問題点をあげている。また,教員組合(NUT)は,評価が不利益に使われるのではないかという教員の不安を報告をしている(Montogomery 1999)。
 教員評価は,教員の資質向上と支援のために行なわれるわけであるが,能力のない教員,問題のある教員の発見にあることも事実である。ドイツやフランスでは,日本と同様に,いったん教員として任用されると,特にその資格が問われることはない。合衆国では1980年代より教員採用などでテストが課せられることが多くなったが,教員の善し悪しを測れるかどうかには批判も出た。そこで授業観察なども導入されることが多くなった。
 たとえばカリフォルニア州では,最も一般的な方法として次のような観点から授業観察が行なわれた(Bridges 1992)。
 
(a) 校長などの査定と観察 (supervisor ratings and observations)
(b) 保護者や生徒からの苦情 (complaints from parents and students)
(c) 同僚からの苦情 (complaints form other teachers)
(d) 生徒の成績 (students' test results)
(e) 修了した生徒からの意見調査 (follow-up surveys of former students)
(f) 生徒の査定 (student ratings)
(g) 保護者への出口調査 (exit interviews with parents)
(h) その他(生徒指導上の問題の数など)(other - including number of times students referred for discipline problems)
 
 しかし,どのような基準で教員の能力を測るかはあいまいで判断がむずかしく,地区(district)によってばらつきが出た。そこでミシガン州の上訴裁判所では次のような評価の観点のリストを示した。
 
(a) 教科の知識 (knowledge of the subject)
(b) 伝える能力 (ability to impart it)
(c) 態度と規律の実効性 (manner and efficacy of discipline)
(d) 保護者と同僚教員との関係 (rapport with parents and other teachers)
(e) 指導の緊張に耐える身体的精神的能力 (physical and mental ability to withstand the strain of teaching)
 このようなリストがあっても,実際,教員を評価することはたいへんむずかしい(Ramsay and Oliver 1995)ことなのである。
 また,イングランドでは,新任教員(newly qualified teacher)が求められる資質として次ページのような分野が明記されている。それでもやはり,何を基準とするかという問題は依然残る。だれが,何を基準として,どう評価するかが教員評価の基本的課題である。
 
(a) 教科の知識と理解 (knowledge and understanding)
(b) 授業計画,指導,授業運営 (planning, teaching and class management)
(c) 確認,査定,記録,説明(monitoring, assessment, recording and accounting)
(d) 他に職務上必要な事 (other professional requirements)
 
5.不適格な教員
 イングランドで校長がどのようにして不適格教員を認識したかという調査がある(Wragg et al. 2000)。それによれば,同僚からが最も多く,続いて,インフォーマルな調査,保護者,生徒となり,OFSTED調査は10番目に位置している。また,どのような点で不適格が顕著になったかに関しては,順に,授業の規律,授業準備,生徒との関係,生徒の学習,教科の知識,仕事への取り組みなどとなっている。さらに,どのような面が不適格かに関しては,順に,生徒の期待,生徒の学習向上,授業準備,授業規律,変化に対する適応,生徒の能力に応じた指導,評価,生徒との関係,教材,学校の方針に対する理解,同僚との関係,職務遂行などとなっている。
 これに対して,教員はどういう面を不適格と捉えているかを次のように回答している。順に次のようになっている。
 
1)授業規律,2)授業準備3)生徒の学習向上,4)同僚との関係,5)管理,6)学校の方針に対する理解,7)生徒の期待,8)評価,9)生徒との関係,10)教材,11)区別,12)保護者との関係,13)カリキュラム,14)職務遂行,15)教室管理,16)変化に対する適応,17)教科の知識,18)宿題
 
6.日本での教員評価のあり方
 本稿では,主に,イングランド及びマサチューセッツ州の教員評価を報告した。この他にもカナダ,ニュージーランド,シンガポールなどで教員評価は行なわれている。いずれも教員の資質向上と研修などと関連した支援というかたちである。また,評価の観点の中心は,その教科の知識や指導技術などの授業評価にある。さらに,評価は昇進や給与と関連し,また,研修への参加によって資格を得ることにより,個人的な経歴,資質向上を支援している。
 日本でも教員評価システムの導入にあたっては,この資質向上の考え方を基本としている点ではまったく同じである。また,東京都の人事考課制度でも,目標を設定しそれに対する自己評価を実施している。これはある程度共通した教員評価システムである。当然,イングランドでの教員評価導入に対してあった批判は日本でも同様に予想される。しかし,イングランドと大きく異なる点は評価者も評価されるという体制である。
 評価は自己評価が基本であり,透明性が大切である。また,評価は互いに納得のいくものでなくては意味をなさない。一方的な評価は教育にはあまり馴染まないだろう。イングランドの教員評価はまさに対等の関係で評価を決めていこうとする姿勢がある。このような教員評価システムは大いに参考になるだろうし,マサチューセッツ州のようなポイント制も検討に値する。イングランドに比べると,日本の学校教育では教員一人ひとりが抱える仕事量が多いので,教員評価を実施するにあたっては,十分各国の教員評価の動向を調査する必要がある。
 昨今英語教育に関してはとかく批判も多い。その批判の多くは,総じて「なぜ生徒は英語が話せるようにならないのか」という教育効果の問題に集約される。その延長として,「英語教員がその能力がない」,「授業が英語で行なわれていない」,「役に立たない英語を教えている」などという批判が出てくる。その批判に対して英語教員は応えなければいけない。そのためには,英語教員一人ひとりが教育内容や指導を再考する必要があるだろう。そのための評価システムはきちんとしなくてはいけない。
 
 
�V 教員自己評価
 
1.自己評価に関する1つの方法
教員評価の基本は自己評価にあると言われる。確かにその通りであるし,ちょっとした評価はだれでも実施しているはずである。ここでは,合衆国での教育を背景とした教員自己評価に関する一つの方法を,Teacher Self-Evaluation Tool Kit (Airasian and Gullickson 1997)をもとに紹介したい(以下は基本的にその要約である)。
1)教員自己評価とは
 自己評価は教員としての資質向上にとって欠かせない。
  Teacher self-evaluation is a process in which teachers make judgements about the adequacy and effectiveness of their own knowledge, performance, beliefs or effects for the purpose of self-improvement.
 しかし,教員は生徒や教材や学習環境などを評価することに慣れているが,自分を評価する,あるいは,他人に評価されるということには慣れていない。
  When a teacher asks, 'Are they paying attention to my lesson?' the teacher is not self-evaluating. When the teacher asks, 'Are they not paying attention to my lesson because I misjudged their readiness for the topic?' the teacher is self-evaluating.
 「授業に集中しているか」ではなく,「なぜ生徒は授業に集中しないのだろう。準備不足だったからだ」などと反省することが大切である。
 
2)自己評価は自己決定
 自分がどのように教えているのかを教員は理解しているだろうか。これは簡単な質問だが意外に知らない場合が多い。あるいは,考えない場合が多い。たとえば,英語指導においても,英語が堪能であるという教員はそう多くないし,英語のことを十分知っているかと言えば,そうではない。いわば,不完全な状態で英語を指導している。その場合,ついつい,苦手なことは避けて通り,自分の得意な分野だけで授業をしているということは,知らず知らずにやっていることが往々にしてある。自分の弱い部分を知って,それを向上させるということはとても大切なことである。つまり,自己評価はそのような自己決定に通じる。
  Teacher self-evaluation is a formative, not a summative, activity (McColskey & Egelson 1993).
3)教員自己評価の4段階
 次のような段階を踏んで自己評価をする。 
(a) 問題認識(Problem identification or delineation)
(b) 情報収集(Information gathering or obtaining)
(c) 反省と決定(Reflection and decision making)
(d) 応用と変化(Application and change)
 教員自己評価は,問題を認識し,明確に焦点をあて,必要な資料を収集し,考える機会を持ち,どう改善したらよいかを決定し,指導方法を改善するための方策を講じ,自分の指導内容や方法などを改善していくことである。
 
4)教員自己評価の考え方
 教員自己評価は次のような方法や考えなどとは必ずしも同じではない。
反省する教員 (reflective practitioner)
実践に関する反省 (reflection on practice)
教員批判 (teacher connoisseurship and criticism)
教員調査 (teacher research)
自己理解 (self-understanding)
教育アクションリサーチ (educational action research)
実践の分析 (analysis of practice)
 教員自己評価の根底にある考え方は次の点にある (Airasian and Gullickson 1994; Osterman and Kottkamp 1993)。
(a) Teachers need professional growth opportunities.
(b) Teachers want to improve their practice and knowledge; teachers want and need information about their knowledge, performance, and effectiveness.
(c) Teachers are capable of assuming responsibility for much of their own professional growth and development, given time, encouragement, and resources.
(d) Collaboration enriches professional growth and development.
 要するに,教員は,専門職としての資質向上の機会を必要とし,知識などを増やしたり,それに関する情報を知りたいし,資質向上に関することに責任を持つ能力があり,協力することで資質を向上をさせていく。このような基本的な考えが教員の自己評価には必要である。
 この自己評価に加え,他の教員評価も当然必要となる。その理由は,教員は各方面(生徒と地域社会,雇用者,教員としての職業,自分自身)に説明責任があるからである。評価は説明責任を満たさなければいけない。
 
5)教員自己評価の重要性
・学力低下の背景にある教員の学習指導力への不満
・教員を査定することから教員自身の内省重視へのシフト
・教員資格試験などの導入
・構造主義的モデルの教授と学習
 これが合衆国で教員評価が求められた理由である。このような傾向が教員評価の領域を広げた。特に,教員評価は資格や総括的な評価からバランスのとれた評価へとシフトしている。このシフトは,新任教員を助けたり,教員のキャリアの機会を広げたり,自分の能力を表明する教員自身の責任を高めたり,自分の仕事を考えるための自分自身のファイル作成したり,他の教員と協力して教育活動をする機会をもつようにするという場で顕著になった。
 教員評価は自己理解と自己改善を目的としている。そして専門家の評価は専門家自身によって行なわれる (Stufflebeam and Shinkfield, 1985) のであり,自己認識と自己理解は資質向上の鍵である(Clandinin and Connelly, 1988)。
 
6)教員自己評価のプロセス
 教員自己評価は教員が行なう重要なプロセスである。その理由は教員自己評価が次のような波及効果を有しているからである。
(a) 職業的責任
(b) 学校や授業につながる自己開発
(c) 個人の変革から組織の変革
(d) 自分の実践のコントロール
(e) 自己理解
(f) 資質向上の奨励
(g) 専門家としての教員の自覚
(h) 教師相互の連携や議論
 
7)教員自己評価の方法
 ‘Reflection in action’ (Schon 1983)ということばの通り,教員自己評価は授業活動の場で起こることから始まる。そのような評価は次のようになされる。
(a) 実際に教えている授業で起こることを評価する。
(b) その活動からすぐに出てくる結果を評価する。
(c) その活動の評価から決定される。
(d) その評価は直観でありなんとなくわかるものである。
 評価はすべてその場で行なうものではなく,時間が経ってから教員自己評価が次のように行なわれることもある。
(a) 実践を離れて考える。
(b) 意識的に慎重に考える。
(c) どのような活動をするかを考え決定する。
 よく使われる教員自己評価の方法には,自己評価チェックリスト,ビデオ,生徒のアンケート,ポートフォリオ(自分のしていることの記録ファイル),生徒の成績などのデータ,同僚からの意見などがある。しかし,校長などの評価はほとんど推進力にはならない。
 教員自己評価の実行に影響を与える要素には次の点が重要である。
(a) 職場の管理職と同僚などのサポート
(b) 実践する上での資料や時間
(c) 学校としての信頼関係と公開性
(d) 授業に与えられる説明の明確さと詳細さ
(e) 教員自己評価を育てる雰囲気
 教員自己評価のスタンダードと基準の質はそれとなくわかるものであり,直観的で,同調性がなく,変わりやすいものである。きちんとしたスタンダードや基準がないために,はじめは自己評価に取り組みやすいが,その複雑さからうまく機能しなくなってしまう。それが教員自己評価の障害となっている。つまり,どうやって教員自己評価をするのかという情報が教員研修プログラムに入っていないからだ。さらに,時間の不足のため表面的な,偏った,不完全な,不適切な評価に陥ってしまう傾向がある。また,実践に関する不適切な情報からくる干渉により間違った判断をしてしまう場合もある。
8)教員自己評価のストラテジーと例
 さらに,Airasian and Gullickson (1997)は具体的な自己評価のストラテジーの例を紹介している。そこでは,授業で何をしているか,どういう態度であるか,どういうことを考えているか,どういう結果を残しているかをしっかり意識していることは大切であると強調し,この自己評価ストラテジーを実施するにあたり留意する項目を4つあげている。
(a)匿名性        (c)いろいろな評価を比較検討    
(b)ポイントをしぼる   (d)一つの方法では測れない
具体的な自己評価ストラテジーと例:
(a) 自己を顧みる (Teacher self-reflection tools)
   チェックリスト,点数表,アンケートなど
(b) ビデオによる記録 (Media recording and analysis)
   マイクロティーチングなど
(c) 生徒からアンケート(匿名性)(Student feedback tools)
   アンケート,簡便な調査,日誌など
(d) ポートフォリオ(自分の仕事のファイル)(Teacher portfolios)
(e) 生徒の成績 (Student performance data)
   テストの結果,エッセイ,授業中の活動,その他の生徒の活動など
(f) 同僚などからの観察 (External or peer observation)
   質問行動,授業構成,生徒の反応など
(g)日誌 (Journaling)
   問題,テーマ,成功例,ニーズなど
(h)話し合い (Collegial dialogue, experience sharing, and joint problem solving)
 
2.日本での英語教員自己評価の必要性
 日本の英語教員研修の実状はどうだろうか。すでに教員評価あるいは人事考課などが導入されたり検討されている状況から考えると,近い将来教員自己評価は導入されることは避けられない。また,「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」などでは,教員評価に関する内容も議論されている。そのような状況から考えると,英語教員自身が自己評価の意味と方法をしっかりと把握しておく必要があるだろう。
 教員評価の基本は自己評価である。東京都の人事考課制度も完全ではないが一応自己評価を尊重している。まさに自己評価の方法を研究し,より実効性,信頼性,妥当性のある評価方法を開発するときであろう。本来学校は学習指導が中心である。それなくしては学校ではない。そうであれば,教員の評価も,教科指導,英語であれば英語指導を中心として,評価されるべきであろう。
 日本の教員評価のあり方にはにはまだまだ課題も多い。他国の評価方法をそのまま導入することは決して賢い選択ではない。歴史的に見ても,公的な教員評価の実施には困難が予想される。しかし,目標もなく評価もない教育活動がありえるはずもない。現行の目標設定のあり方や評価のあり方は当然見直されるべきだろう。英語教育の成果がこれだけ批判されているにもかかわらず,当の英語教員が現状に甘んじていてはいけないだろうし,英語教員が活躍できるシステムを早期に構築することが大切だと考える。
 最後に,現在の教員評価にかかわる具体的な調査項目をいくつかあげておく。
・英語教員は教員評価の導入に賛成か反対か。また,その理由は何か。
・英語教員が評価されるとすれば,どのような観点で評価されるべきか。
・自己評価を実践しているか。しているとすればどのようにしているか。
 していないとすれば,その理由は何か。
・授業観察などについてどう考えるか。
・資質向上の研修と評価が昇級や給与へとつながることをどう考えるか。
 
引用・参考文献
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